佐藤 啓介 佐藤 啓介
Interview 06

半導体機器―他社への
コンポーネント販売

SE技術本部 設計部
第1グループ 主務
佐藤 啓介

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マルチビーム描画・検査装置
他社へ初めてのコンポーネント販売

これまで日本電子では、他社からコンポーネントを購入することはあっても、他社に販売することはなかった。しかし、オープンイノベーションの時代を迎えて、積極的に取り組み始め、IMS社(米インテルの子会社)と提携し、マルチビームによる装置のコンポーネント開発・販売を行っている。外部からの新たな知見が、日本電子の開発にも好影響をおよぼしている。

佐藤 啓介1
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26万本のマルチビーム描画装置

技術進化の激しい現在、自前主義では閉塞状況を招き、時代の変化に取り残される。そのため、オープンイノベーションが注目され、競合も含めて、他社との連携や提携が必要とされるようになっている。
日本電子はこれまで、自社開発・自社販売にこだわり、他社からコンポーネントを購入することはあっても、他社のためにコンポーネントを開発して販売することはなかった。
そこに風穴が空いたのが2012年のこと。マルチ電子・イオンビームの研究開発企業だったオーストリアのIMS社から、マルチ電子ビームマスク描画装置のために、コンポーネントを開発してほしいという依頼があった。それを任されたのが、電子ビーム描画装置の設計を担当する設計部の佐藤啓介だった。
「IMS社が開発しているマルチビームのマスク描画装置に、協力してほしいというのです。通常の電子ビーム描画装置が1本のビームを使うのに対して、マルチビームは26万本で一気に描画するので、従来の装置より2分の1から3分の1の時間で描き終えることができるのです。IMS社は当時製品メーカーではなく、研究開発を主軸とした企業であり、マルチビームで大変高い技術を持っていました。そこで、描画材料を置くためのステージ技術を持っている日本電子と連携したのです。」
数ナノレベルのビーム26万本を受ける側のステージは、数十ナノ単位で精密にコントロールする必要があった。それほど微小なステージの動きを制御するには、企業同士の技術協力が必要だったのだ。

真空とエア駆動の二律背反問題を解決

日本電子にはステージを制御するノウハウはあったものの、IMS社が求める精度を出せる装置はなかった。そこで、佐藤は国内大手重機械メーカーで試作レベルであった「エアベアリング真空ステージ」に目をつけ、採用に踏み切った。これは、真空内にも関わらずエアでステージを浮上させ、かつ非接触で動作させることで、微細で滑らかな動きを制御するものである。
これまでにない機構であり、佐藤たちのチームで国内メーカーとの協議を重ね、真空チャンバーを含めて開発を始めた。開発期間は翌2013年の秋までと限られており、短い開発期間でチームメンバーはプレッシャーを感じていた。
「一番難しかったのは、数ミクロンの隙間からエアを出してステージを浮上させながら、同時に真空度を保つという二律背反問題の克服でした。排気用のポンプの数やパワー、チャンバーの容積などを工夫しました。具体的には、通常は1台か2台使う排気用ターボポンプを5台に増やして一気に力尽くで空気を抜いて、真空を保つようにしました。」
もう1つの課題は、ステージ振動により位置が安定しないことだった。これも試行錯誤を繰り返して、予定通りに開発完了し、出荷することができた。
「IMS社から現在、マルチビーム描画装置が発売されていますが、かなり売れ行きが良いようです。特に、大きな半導体工場で順調に導入されています。2012年頃のIMS社の工場は小さなものでしたが、今では設備投資もして立派な工場になっており、2016年にインテルの完全子会社になりました。」

半導体業界のスピード感を痛感

このIMS社とのパートナーシップの成功を知り、大手半導体製造装置メーカーからもステージの引き合いがあり、2017年より次のプロジェクトを開始している。
「現在も開発中で、機構は同じなのですが、昨今の半導体の微細化に伴い、微細なゴミに関しては厳しいスペックを要求されています。ゴミと言っても、材料から出るガスですね。それは事前に真空中で焼いて、ガスを除去する下処理を施すことで解決しました。2018年度中に出荷を予定しています。」
「この1年間はずっと、毎週のように提供先企業の担当とテレビ会議を行っており、そのたびに宿題項目が増えていくので、苦労しています。」と佐藤は言うが、その目は楽しそうだ。
世界の最先端を行く他社からの依頼で、コンポーネントを開発することについて、佐藤は「ユーザーからの要求は厳しいが、自社の装置の性能を向上させる上でも役立つ。」と言う。
「求められる開発スピードが社内よりも速く、半導体業界のスピード感を痛感しています。このぐらいの速さでなければお客様に満足してもらえません。」

日本電子の技術が世界に認められた

一連の開発で最も苦しかったことは「コンポーネントと共に自社の装置開発も同時に行わなければならなかったこと。」と佐藤は言う。
「絶えず複数の案件が走っているので、自分の時間やパワーをどう適切に振り分けるか、苦労しました。仲間の協力を得ながら、何とか対応してきました。苦労もありましたが、自分が設計した初めての機構が無事に動くのを見るとうれしいですね。IMS社のようにたくさん売れると、さらにうれしいです。当社の技術力が世界に認められていることでもあるので、やりがいを感じます。」
今後の展望として佐藤は「まずは現在のプロジェクトのコンポーネントを完成させること。」と言う。
「各提供先で、要求される機構は同じでも形状などは異なるので、今後、共通化を進めて、開発スピードをさらに上げたいと思っています。さらに、その先はIMS社に負けないぐらいの最高性能の描画装置を自社でも作りたいですね。」
今後も、世界から日本電子にコンポーネント開発を依頼してくるケースは増えるだろう。

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