佐藤 崇 佐藤 崇
Interview 08

産業機器―電子ビーム
金属3Dプリンター

3D積層造形プロジェクト
技術グループ 副主査
佐藤 崇

  • 佐藤 崇1
  • 佐藤 崇2

    アディティブ・マニュファクチャリング

もの作りを変える
次世代型3Dプリンターが
新生日本電子の象徴的製品になる

3Dプリンター分野では後れを取ってしまった日本だが、現在、国家プロジェクトが進行中で、日本電子はその重要な役割を担っている。それは、次世代型の電子ビーム金属3Dプリンターだ。世界でも例が少ない電子ビームを使って金属粉末を溶かし造形する装置で、すでに試作機開発は完了し、 2019年度中の製品化を目指している。

佐藤 崇1
佐藤 崇2

アディティブ・マニュファクチャリング

電子ビームで金属粉末を積層造形

一般的に使われている3Dプリンターは、光を使って樹脂を硬化、積層し造形するが、日本電子がいま取り組んでいる3Dプリンターは、電子ビームを使って金属粉末を溶かす積層造形装置だ。レーザービームを用いる装置はあるが、電子ビームは世界でも1社しか競合がいない画期的な製品である。
この次世代型の電子ビーム金属3Dプリンターのプロジェクトチームで技術グループのサブリーダーとして活躍しているのが、副主査の佐藤崇である。
「海外ではすでに、金属3Dプリンターを使って旅客機のエンジン部品などの製造が始まっています。3Dプリンターでは、一体成型ができるため、部品点数が従来の10分の一から100分の一にも削減でき、検査工程などを含めると大幅なコスト削減が可能です。これに対して、日本では産業用3Dプリンターへの取り組みが遅れていました。このままでは世界のもの作りの潮流から取り残されてしまいます。そのため、2014年から国家プロジェクトとして、次世代型産業用3Dプリンター開発がスタートし、当社はその電子ビーム方式の開発チームに参加しています。」
この国家プロジェクトは、正式には「技術研究組合次世代3D積層造形技術総合開発機構」で、通称「TRAFAM」と呼ばれている。
レーザービームに比べて電子ビームは、熱効率が高く、金属材料を溶かすスピードが速いため、スループットが高い。また、レーザーでは難しかった材料を溶かすことも可能だ。現在、日本電子では高融点で強い耐食性や強度を持つ、チタン系合金の粉末を用いている。

心臓部の電子銃を開発

佐藤は2015年に現在の部署に異動し、電子ビーム金属3Dプリンターの心臓部であるビームを放出する電子銃の開発を担当している。高いパワーを必要とするため、社内の既存の電子銃を使うことができなかった。
「新たに高いパワーの電子銃を開発する必要がありましたが、問題はパワーを上げると金属粉末からガス(金属蒸気)が発生することでした。このガスは電子銃にダメージを与えるのです。」
電子ビーム装置は、電子がガス分子によって散乱されるのを防止するため、真空チャンバーと呼ばれる高真空の容器内に収納される。このチャンバー内で発生するガスは大敵だ。機構を改良し、ガスの影響が抑えられたときはうれしかったと佐藤。
「また、電子ビームの照射部は高温に達するので、数秒止まっただけで鉄製の台を貫通し、チャンバーを破壊してしまいます。そのセーフティー機構ができるまでは、常に装置を監視し、残業の許可を得て夜中まで実験室にいたこともあります。」
それでも電子銃開発では、日本電子に蓄積されたノウハウがあるからまだよかった。問題は、金属粉末を溶融するプロセスの開発だった。社内にはその技術は無い。
「本当に溶融プロセスの開発には苦労しましたが、開発チームに材料の専門家を数名加えることで、何とか乗り越えることができました。」

ものづくり日本を支える技術

こうした苦労を克服して、開発が始まってから約1年後に、積層造形ができるようになった。佐藤はひとまず高いハードルを越えることができてホッと一安心した。
試作品としてチューブ型や棒状のものを作り、さまざまな試験を行った。そこから、さらに2~3年かけて製品化できるレベルにまで改良を加えた。
「開発チームには若い社員が多いので、それぞれ主張があり、まとめるのは大変でした。でも、主張があるからより良い製品になるのです。装置として形にすることができて、本当によかったです。」
開発中、プレッシャーを感じたかと問うと、佐藤はこう答えた。
「大きな開発費をかけているので、もちろん責任を感じていました。しかし、新生日本電子の象徴的な製品になり、ものづくり日本を支える技術になるかと思うと、毎日が楽しくて、製品ができあがっていくのが喜びでした。」
商用の製品を作るためには、細かい改良の積み重ねが必要だ。これまでも電子ビームを安定させるために、常に小さな変化を見逃さずに地道な作業を繰り返してきた。
「電子ビームの発生源は、ちょっとしたことでも酸化し、性能が落ちるので、少しでも違和感があるとすぐにSEM(走査電子顕微鏡)で調べなければなりません。その繰り返しが大変でした。開発は労をいとってはいけないのです。」

3Dプリンターの日本電子と呼ばれたい

電子ビーム金属3Dプリンターは2019年度中に発売予定だ。現在、同様の金属3Dプリンターを製造するメーカーが世界に1社あり、開発できたとはいえ安閑とはしていられない。
「まだまだ彼らに一日の長があり、発売後もお客様に使ってもらいながら、改善を続けなければなりません。初号機は、まずTRAFAMのメンバー企業に使ってもらい、フィードバックを受けて改良していきます。」
この次世代型3Dプリンターは当初、航空宇宙産業で使われ、その後は自動車産業などにも普及するとみられる。それによって、大幅なコストダウンだけでなく、性能や耐久性の向上にもつながる。日本にとって重要な基幹技術になる。
佐藤は「この1~3年が勝負。」と語る。
「発売後にお客様の声に応えて、素早く改良し、使ってもらえる製品に仕上げていくことがなにより大切です。ゆくゆくは、“3Dプリンターの日本電子”と呼ばれるようになりたいですね。」と佐藤は楽しそうに語る。
海外では3Dプリンターによる製造技術を『アディティブ・マニュファクチャリング』と呼ぶ。アディティブとは、付加的という意味だ。電子ビーム金属3Dプリンターは、次世代の付加的製造技術の出発点となるだろう。

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